謎はいつもそこに

子供の頃から自然に生活の中にまざっていた不自然なものたちのお話。

私の世界 2. 彼方

たった2日前まで普通だった父は、入院した翌日にはもう意識が混濁している状態でした。

たまに会話できるのですが、意識を保ち続けるのは大変そうに見えました。

それでも、父を見舞うお友達の方が毎日4〜5人ずつ来てくださっていたのですが、お友達が話しかけると毅然と返事をしたりして、父の精神力はすごいなと思いました。

 

でもそのうち、眠ってばかりいる日が増えていったのです。

時々話しかけたりもしましたが、それよりも手を握ったり、エネルギーを交流させたりする方が、父の呼吸がラクになるように感じました。

 

ある日、私は連日の病院通いに少し疲れたのか、夕方帰宅してソファに体を預けたらすぐに眠ってしまったようです。

 

 

 

 

 目の前に、美しい景色が広がっています。

ボリビアのウユニ塩湖に似た、こんな場所です。

 

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ここに父が立っていました。

冬によく着ていたキャメルのダウンに、チノパンという姿で。

 

そして景色を見渡して、目をキラキラさせています。その表情は「なんだここは〜!」と言っているようで、すごく嬉しそうなのです。

 

父は肩から下げたカメラを手に取ると、すぐにシャッターを切り始めました。

 

正面、遥か遠くから後光のような神々しい光が強く柔らかく差していて、父の顔を照らします。

父はその遠くを見つめ、わくわくしたような顔をしていました。

そして笑顔で振り返り、

 

「写真撮るからみんな並んで!」

 

気づいたら、姉や姪っ子たち、母や親戚や知り合いがたくさんいます。

みんなで集まるといつもそうしてるように、父は集合写真を撮っていました。

 

 

 

ハッと目を覚まして思ったのは、父は今、あちらとこちらを行き来し始めてるんだということ。

 

あんなに美しい世界が父を待っている。

 

旅立ちの場所。始まりの入口。

 

寂しい場所じゃなくてよかった。

 

悲しいより先に、そう思ったのを覚えています。